「天空の鏡を見に行こう!」


目を輝かせたがやけに弾んだ声音でそう言ってきたのは、搭乗予定の飛行機のチェックインが始まった直後だった。ちなみに行き先はインドネシアだったのだが、は有無を言わさず飛行機をキャンセル。うわなにをするやめry
の行動は、あっという間だった。
なにせボクが呆然としている間に手早くラパス行きの飛行機を手配し、ツアーへの申し込みを済ませていたのだから。

あれよあれよと事は進み、不覚にもボクが我に返ったのは、ラパス行き便の座席についてからだった。

「な……っんでこうなるんだよ!!」
「え?今更?反応おっそ!」
「お前ボクのこと馬鹿にしてるだろ!」

力一杯睨み付けてやってもはちっとも堪えてない様子で、むしろにやにやしている。うわ、普通にムカつく。すっごいムカつく。
そっぽを向くと、くすくすという忍び笑いが耳をついた。いちいちカンに触る奴だな、ファック。

「まぁそう拗ねなさんな、すっごいもの見せてあげるからさ」
「……天空の鏡ってやつのことか?」
「そう。私も行くのは初めてっていうか、さっき偶然雑誌で見かけただけなんだけど」
「思いつきかよ!!無計画かよ!!」
「思いついたが吉日って言うじゃない!それに今の時期じゃないとお目にかかれないみたいだし」
「……季節が関係するのか?」
「ご明察。ま、後は見てのお楽しみってやつだね」

意味ありげに笑みを深めると、はシートに深くもたれかかって目を閉じた。どうやら寝る気満々らしい。
しょうがないから、不服ながらボクは手持ちカバンの中からイリアスを取り出し、頁を捲った。

ラパスに到着したボクらを待っていたのは、ツアー会社の車だった。オルーロ、チャリャパタ、ワリを経由して、目的地であるウユニとやらに行くらしい。
車の中から見えたリャマにちょっとだけ興奮したけど、の手前なんとなく悔しいので平静を装う。……が、ボクの心情なんかバレバレで、はそんなボクをにやつきながら見ていた。こっち見んな。リャマはいいけどてめーは駄目だ。
ランチは、アンデスの高原でサンドイッチを食べた。なだらかな稜線が連なる雄大な景色…空の色は深く、悠々と流れていく大きな雲を眺めてのランチは――正直どんな味だったか覚えていない。
世界をこうして旅するようになって、度々自然や遺跡や文化に圧倒されることがある。自分で囲いを作った狭い殻の中に閉じ籠ったままでいたなら、一生知ることが出来なかった感動。
頭が真っ白の空っぽになる代わりに、胸が眼前の壮大さ、荘厳さ、世界観でいっぱいになる。
こんな感覚をボクに与えてくれたのは他でもない――ボクらの王、イスカンダル大王だ。
この世界はこんなにも広くて、ボクの存在はちっぽけで。だけどあの人は言った。極小、至弱、大いに結構。蘇る胴間声は、いともたやすくこの心を震わせる。
滲みそうになる視界を振り払うようにサンドイッチを一気に詰め込む。当然だが、むせた。
なにやってんの。は苦笑しながら水筒を差し出し、背中を擦ってくれた。

ボクは知っている。
こんな気持ちの時、はボクを決してからかったりしない。ボクの感情に水をさしたりしない。
そしてボクに注がれる眼差しが、涙を助長しそうになるくらい優しい色で溢れていることを。

変な話だけど、むせてよかったのかも。目が潤んでしまった理由を、そのせいに出来るから。



この後ウユニ塩湖に到着、ルナ・サラーダに泊まって星を観察。
夜のうちに雨が降って次の日には天空の鏡出現★二人揃って感動しまくって、はしゃいで、写真撮りまくって、夢主が「頑張った甲斐があった」ってやり遂げた顔で言う話の予定だった
ヒント:夢主の属性は水と風
20120516