かつてボクらの王は、自らを魂食らいのサーヴァントだと称した。

彼が消えた今、正しくそうだと思う。

ウェイバー・ベルベットの、卑屈で自尊心ばかりが高くて狭い視野しか持たない魂は、あの男に喰われたのだ。
咀嚼され、飲み下され、王の臓腑の中に落ちた。そこで感じた彼の豪快さや生き様にひどく揺さぶられたし、どうしようもなく惹かれた。
そうしてウェイバー・ベルベットの魂は王と共にあることを希求した。

きっと、彼女もそうだったのだろう。そう思う。
悠久の時を超えて、王との再会を切に願った魔術師。彼女の魂もまた王の腹の中にいると、ボクは確信している。
現し身は消えてしまったけど、ボクと彼女の魂は今なお王と共に。



ギリシャへ向かう飛行機の中、唐突に名前を呼んだ。窓の外に広がる青空と雲に見入っていた彼女は、呆けた顔でこちらへと振り向く。

「なに?」
「ギリシャってどんなところなんだ?」
「んー…私の記憶、2000年ぐらい前のだけど参考にする?」
「……やっぱいい」

会話の不毛さに思わずげっそりするボクを見て、は楽しそうにけらけらと笑う。
なんだか気にくわない。すっごく気にくわない!

「なんだよ、馬鹿にしてるのかよ」
「別に?まぁとにかく、百聞は一見にしかず。ギリシャがどんなところかは、その目で日光と景色の色彩を見て、その足で大地の感触を踏みしめて、その肌で風の温度を感じて確かめなさいな。
ウェイバー・ベルベット、胸は高鳴って?」

そう言うなりシートから上体を乗り出してきた彼女は人差し指で、ボクの薄い胸元を小突く。
身長も年齢もボクと同じなはずなのに、眼差しや言動はやけに老練していて、経験の差と言うものを思い知らされる。正直前世込みなこいつと張り合うこと自体間違いなのかもしれないけど。
だけど、ああそうさ。この胸は今、狂おしいばかりに躍っている。
だってあの人の、ボクらの王ゆかりの地に降り立たんとしているんだから!
自然と口角がつり上がるボクの顔付きに、は満足そうだった。

20120515