「いいよなあ、は」

そう呟けば、琥珀の瞳がきょとんとしてこっちを見てくる。おれはなんだか気がふさいでしょうがなくって、ため息を吐き出した。

「……六太?どうしたの」
「いや……だってお前は絶対に……尚隆といっしょに逝けるだろ」

我ながら、なに言ってんだって思う。
尚隆は今、内乱の鎮圧のため出兵している。州候が反逆し、兵を上げたのだ。原因は宮廷内の諸官の整理。私欲に走り、私腹を肥やす官を野放しにする時期は終わった。八州州候の入れ換えも済もうかという時節の蜂起だった。事前に不穏な動きを掴んでいたものの、先手を打つことが出来なかったらしい。
あっちにそれなりの切れ者がいるらしいな。
そう苦笑していた尚隆の横顔は記憶に新しい。
血を忌む麒麟は戦場に行けないから、おれはこうして王宮に留まっている。
尚隆は無事だろうか。どうしてもそればかりが思考を支配する。あいつ、剣技はかなりの腕だし、そうやすやすと誰かに後れを取るような奴じゃないって、頭ではわかってるんだけど。悧角もつけてるし。けど、駄目なんだ。おれ自身のことなのに、頭と心は別物で。麒麟の性が、どうしようもなく王の喪失を恐れている。
王気が絶えないか、必死に感覚を研ぎ澄ます。そして祈るような気持ちで、途絶えることがないよう願ってる。
嫌なんだ。置いていかれるのは。麒麟としてもだけど、おれが、六太が耐えられない。また王を選ぶなんて正直冗談じゃない。そんなの、一回だけで懲り懲りだ。
だから。
尚隆が死ぬ時、絶対一緒に逝けるが羨ましい、なんて思っちまう。
は白稚だから。白稚の命は王に繋がっている。王の死に際して崩御を鳴き、落ちる。そういう生き物。
置いていかれることは絶対に、ない。

「……六太」

俯せるおれに、が寄り添うのが気配で分かった。

「大丈夫だよ。尚隆は、絶対に六太を置いていったりしない」

耳に心地いい声が、まるでおれの心を見抜いたみたいに、一番欲しい言葉を紡ぐ。

「尚隆は、欲張りだから。自分の物は誰にもあげない。六太を次の王に残していったりしない」

思わず顔を上げていた。と目が合う。は少しだけ、笑った。

「だからその時は六太も道連れだって、言ってたよ」

――誰が、なんて野暮なことは聞かなかった。
おれは馬鹿馬鹿しい気持ちが込み上げてきて、最悪、と呟く。

口元が弛むのを、果たしてこらえられただろうか。


130606
王と麒麟と白稚。

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