むかしむかし、えんのくにに王さまがたちました。その王さまをえらんでくれたきりんは、あざやかな金いろのかみをした男の子でした。
さて、この王さまが住んでいるお城のげんえい宮は、高い高い山のてっぺんにありました。どれくらい高いかというと、雲よりもです。
げんえい宮には女の子がくらしていました。女の子の名前はといって、見た目はきりんの男の子よりもまだ子どもです。でも本当は、きりんの男の子もも子どもではないのですけれど。
はふつうの女の子ではありませんでした。ふつうの女の子だったら、王さまの子どもじゃない限り、げんえい宮には入れません。ははくちというとくべつな鳥だったのです。
はくちとは、本当だったら一生のうちに二回しかなかない鳥です。一回めはだれかが王さまになったとき、二回めは王さまが死んだときに、人のことばでそれを伝えます。そくい、と、ほうぎょ。そのふたつしかなき声がないはずなのですが、はちがいました。
おしゃべりな女の子ではありませんが、それでもお話をすることができたのです。
それに、は"はん人"でした。はん分鳥で、はん分は人間です。これがたいそうめずらしいことで、べつのはくちはみーんなただの鳥なのです。女の子になれるのは十二の国のどこをさがしても、だけでした。

「よう、。元気にしているか」
「主上」

げんえい宮の中のの住まい、にせい宮に王さまがやってきました。
えんの国の王さま――えん王は名前を小松三郎尚隆といって、ちがう世界からきたお人でした。こちらでの名前はおなじ字で尚隆ですが、読みかたがちがいます。しょうりゅう、と読むのです。
もっとも王さまを名前でよぶなんておそれおおいことをしているのは、きりんの男の子の六太だけなのですが。
でも王さまはにも名前でよんでほしいようで、いつもそうせがんできます。

、主上などとたにんぎょうぎによんでくれるな。尚隆、でいい」
「でも」
「さあ、よんでみろ」
「……尚隆」
「そうだ、それでいい」

尚隆はまんぞくそうにわらうと、そのおおきな手での頭をなでてきます。このやりとりが、二人のあいだではあいさつみたいなものでした。
尚隆とこうしてお話するのは、いつぶりでしょうか。尚隆はこの国の王さまなのですが、すぐにげんえい宮をぬけだすわるいくせがありました。尚隆にはまけますが、六太もです。
そうして出かけた二人は、しばらくは会いにきてくれません。
だから尚隆と会うのはひさしぶりでした。六太とさいごに会ったのは、もう十日も前のことです。

「こんどはどこに行ったの?」
「ああ、ごんけんのほうにな。今はちょうどいねのしゅうかくじきだ。みごとなふうけいだったぞ」
「いね……」

それはどんなものかしら、とは首をかしげました。
はげんえい宮から出たことがありません。それがきまりなのです。ははくちです。はくちはこのにせい宮から出てはいけないのです。だって出かけているときに王さまが死んでしまったら、だれもそれを知るすべがなくなってしまうのですから。
それはぜったいにしてはいけないことなのだと、はわかっていました。
そんなに気づいた尚隆は、わらってふところからなにかをとり出して、にわたしてきました。

「これは?」
「みやげだ。それがいねのほ、いなほだ」
「これが……」

ちいさな手のひらではだいじそうにいなほをつつみました。ひょうじょうがゆたかではないのほほがすこしだけ赤らんだのを見て、尚隆もまたえがおになります。
尚隆はこのはくちの少女を、それこそ目に入れてもいたくないくらいにかわいがっていました。

「それは少し色があせているが、うわっているやつはもっときれいな色をしておってな。見わたすかぎりの大地をおおっている。たけはおれの太もものあたりだったか。
そうだな――日の光をあびたいなほはちょうど、六太のかみとおなじ色をしている」

やさしげなよこがおを見あげたは、目をとじてそうぞうしてみました。
空は青くて、たなびく雲は白く、だいちをおおったみのりは、のよくしるこがねいろ。風をうけると六太のたてがみとおなじにゆれるのです。
それはとってもすてきなけしきでした。そうぞうだけでこんなにうつくしいのですから、じつぶつはどんなにすばらしいでしょうか。
見にいってみたい、と思いましたが、それが出きないこともにはわかっていました。
しょんぼりするに、尚隆はやさしくわらいかけてくれます。

、見にいきたいか?」
「……見にいきたい。でも、だめだから……」
「そうしょげるな。わるがきがもどったらともにいってくればよかろう」
「でも」
「あんずることはない。なに、おれがこのにせい宮でしつむをとっていればだれももんくは言うまいよ。ただしとまりはゆるさん。朝にたって、日ぐれ前にはかえってくるのだぞ」
「――うん。ありがとう、尚隆」

ほほえんだを尚隆はうれしそうに見つめます。
尚隆にとってきりんの男の子もはくちの女の子も、とってもたいせつな人なのです。

「さて、わるがきはいつかえってくるかな……」

の頭をなでながら、尚隆はまどの外をながめます。きれいな青空がうすくなっていって、やがてゆうやけにそまろうとしているところなのでした。


おしまい



130524
なんか絵本チックな文体を目指したらしいんですけどどうでしたかね
白雉をはくちってひらがなで書いたら脳内で誤変換しそうになって青ざめたでござる……いかーん!その誤変換はなんか…いかん!!
尚隆は六太のことなんだかんだで大事にしてるのがたまらんよね

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